国内研究
「近未来こども環境デザイン拠点」の第8回拠点コンソーシアムセミナー報告
名古屋市立大学が実施している「近未来こども環境デザイン拠点」の第8回拠点コンソーシアムセミナー(2023年9月14日、オンライン開催)で樋口が企画と当日の司会を担当しました。
まず、拠点の説明を少し。「近未来こども環境デザイン拠点」は、JST(科学技術振興機構)の「共創の場形成支援プログラム」の1つです。
共創の場形成支援プログラムはこちら↓
https://www.jst.go.jp/pf/platform/
「近未来こども環境デザイン拠点」概要はこちら↓
https://www.jst.go.jp/pf/platform/file/2022/2022_kyotengaiyou_2217.pdf
この拠点がめざしているのは「孤育てが消え、こどもと家族の笑い声があふれる街」、生き方・あり方の多用な選択が尊重され、支えられる社会です。その「社会」には、海外ルーツの人びとも含まれるべきであるということから、これまでのターゲットに加えて、今後は海外ルーツの人びとも包括した活動をしていく方針となり、この度樋口も拠点メンバーに加わりました。
その第一歩として、今回のセミナーは「“孤育てが消え、こどもと家族の笑い声があふれる街”で海外ルーツの子どもと家族も笑うために」と題して企画しました。
海外ルーツの人びとの人数が増え、その背景も多様化しています。日本社会が彼らの力に支えられているウェイトは年々大きくなっています。しかし、私たちがそのことに対応しきれていない現状があります。在留外国人数が東京についで多い愛知県で、海外ルーツの人びとの支援に関わる3名のパネリストから、現状と私たちに何が必要かをお聞きしました。
パネリストは、公私にわたり多くの海外ルーツの人びとの支援に尽力しておられる神田すみれさん、ネパール出身で2008年に来日したカビタ・タパさん、ベトナム出身で2010年に来日したグェン・タン・タムさんの3名です。(詳しいプロフィールはこちら↓)
https://www.coinext-ncu.jp/news/20230914/index.html
3名の自己紹介の後、2つのポイントでパネル・ディスカッションを行いました。
まず1点めは、海外ルーツの子どもたちの支援にこれまで関わった中で、日本社会が変わればうまくいったのにと感じた経験についてです。
それぞれのパネリストからは、具体的経験がシェアされました。ある国の出身者に悪い印象を持ったことを理由にその国の出身者全体に悪い印象を持つような発言、食事、肌の色、名前などアイデンティティであり変えられないことに対する心無い発言などです。マイクロアグレッション(自覚なき差別)は、残念ながら多く起こっているようです。
違いを理解されず、日本の価値観だけで判断され、厳しい批判を受けたという事例も報告されました。例えば、子どもを置いて出生届を出しに行ったら、役所で怒られた、赤ちゃんを冷やしてはいけないという信条からぐるぐる巻にしていたら、訪問の保健師さんに怒鳴られた、お葬式のため子どもに食費を渡して一時帰国している間に、子どもが児童相談所に連れて行かれた、というような事例です。
怒る前にどうしてそのようにするのか尋ねればいいし、ちょっとしたことを頼ってもらえる存在になる必要があるのではないかとの示唆がありました。悪気がないのに人を傷つけてしまうのは、知識不足、経験不足、コミュニケーション不足の為せる結果であり、情報共有し、接点を作っていく必要があると考えます。
そこから発展させて、2点めの「こどもと家族の笑い声があふれる街」で海外ルーツのこどもたちも笑顔で生きていけるようになるために、この拠点のような産学官連携プロジェクトにどのようなことを期待するかについてご意見をお聞きしました。
違う文化を持っている人がいるということをわかり合える機会を作る、接点を作ることの重要性が3名それぞれからあがりました。そこには、きちんと予算と人を付けて制度化する必要があります。
最近、多文化交流イベントは増えていますが、非日常のお楽しみ的なものではなく、きちんと人がつなげることが大切です。ソーシャルワーカーの必要性や、イベントを実施するとしても、市などの大きい単位のものだけではなく、地域や団地といった日常生活の範囲の中での意見交換できるようなものにすること、などの提案がありました。
また、情報共有というと、ちらし、ガイドブック、ホームページなどになりがちだけれども、それだけでは知識も接点も増えないし、つながりもできません。やはり、きちんと人がつなげる持続的なしくみを作っていく必要性が指摘されました。
非常に短い時間でしたが、まとめると、人がつなぐ日常生活での接点を制度化すること、それによってコミュニケーションを取り、お互いの、特に日本社会の経験や知識を増やすこと、そのためには予算を付けていくことが重要ではないかということで締めくくりました。
時間的制限のため、参加者と十分なディスカッションをすることは叶わなかったのですが、支援団体の運営者である参加者のおひとりからは、「交流のみを目的とするのでなく、日常的に地域で顔の見える関係を作りつつ、地域に根差した居場所とか一緒に体験できる場が本当に必要だと思います。」との書き込みをいただきました。
これを機に、ディスカッションを深め、ネットワークを広げて、海外ルーツの子どもと家族も笑うことができる社会の実現を目指していきたいと思います。
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